新入社員として配属されて数週間。
仕事にも少しずつ慣れてきたけれど、
直属の上司である水瀬(みなせ)課長には、まだどうしても緊張してしまう。
彼女は知的で美しい大人の女性。
しなやかな黒髪を後ろでまとめ、鋭い視線を送ってくる姿は、
まさに仕事のできる女そのものだった。
けれど、一度笑顔を見せると、
その表情は驚くほど甘く柔らかくなる。
ある日、遅くまでオフィスに残っていた僕は、ひとり会議資料を作り直していた。
ミスを指摘されたくなくて、完璧なものを提出しようと必死だったのだ。
「……こんな時間まで頑張るなんて、えらいじゃない」
ふいに耳元に響く、落ち着いた女性の声。
振り向くと、水瀬課長がすぐ後ろに立っていた。
香水のようなほのかに甘い香りが漂い、僕の呼吸が止まる。
「そんなに詰めすぎると、体がもたないわよ?」
「……すみません、もう少しで終わるので」
「ふふ、真面目なのね。でもね……」
課長はそっとしゃがみこみ、僕の椅子の肘掛けに手を添えた。
視線の高さが揃い、彼女の唇がすぐそこにある。
瞳がどこかいたずらっぽく揺れていた。
「そんなに頑張らなくても、私はちゃんと見てるわよ?」
囁くような言葉とともに、そっと僕のネクタイを指先でなぞる。
軽い仕草なのに、背筋が熱くなる。
「……課長?」
「しーっ。会社でそんなに硬くならないの。もっと力を抜いて……ね?」
そう言うと、水瀬課長は微笑み、そっと僕のネクタイを直してくれた。
柔らかな指先が肌をかすめるたびに、理性が揺さぶられる。
彼女は人妻だ。手を伸ばしてはいけない相手。
でも、こんな誘惑を仕掛けられたら――。
「もう引き返せない……」
そう思ったときには、僕の手はすでに彼女の細い手首に触れていた。
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