鬼ヶ島の夜は冷えていた。
和の国の冬を思わせる、芯まで染みるような寒さだ。
ヤマトは一人、月を仰いでいた。
胸の内にあるのは、いつもの言葉――「僕は、おでんだ」。
父に与えられた名でも、血でもない。
処刑される間際まで笑っていた男の背中に、心ごと焼き付けられた名だ。
(……おでんは、‘男’だ)
‘彼’はこれまで、何度も言ってきた。
自分に言い聞かせるように、世界に叩きつけるように。
その夜、違和感は突然やってきた。
最初は気のせいだと思った。
疲労か、寒さか――
あるいは高鳴りすぎた心臓のせいだと。
だが確かな‘変化’は、否応なく現実を突きつけてくる。
「え、ち、ちょっ、待ッ……!!」
焦りに声が裏返る。
いつの間にか股間に生えていた男性器を見て、ヤマトは一瞬言葉を失った。
(――じょ、冗談だろ?)
これまで自分が口にしてきた‘覚悟’。
ならばと世界のほうから、そのまま返されてしまったかのようだった。
頭が、真っ白になる。
心臓が、早鐘を打つ。
「ちが……いや、違わなくも、ないのか……?」
否定しようとして、言葉が続かない。
僕は、おでんだ。
そのおでんは、本当の男だ。
そう言い続けてきたのは、自分自身なのだから。
「……まあ、僕がおでんだって言い続けた結果なら」
しばらく呆然としたあと、ヤマトは大きく息を吐いた。
混乱は消えない。
けれど、逃げる気も起きなかった。
むしろ肩をすくめて、苦笑する。
焦りの奥から、奇妙な納得感がじわじわと湧いてくる。
「――今さら、驚くほうが遅いか……そうか、そうだな!」
月明かりの下、ヤマトは背筋を伸ばした。
揺らいだのは一瞬だけ。
心の芯にあるものは、最初から変わっていない。
名乗りたい名を名乗り、
憧れた背中を追い続ける。
「そうだ。僕は――おでんだ!!」
言葉にすると、不思議と落ち着いた。
世界がどう変わろうと、自分の歩き方は決まっている。
焦って、騒いで、最後には開き直る。
それもまた、‘おでんらしさ’なのだろう。
ヤマトは笑い、夜の冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。
前に進む準備は、もうできていた。
それどころか胸は高鳴り、未知への期待感で満たされていたのである。
■収録内容:基本CG21枚・差分込み合計101枚収録
(差分対応によりエフェクトの有無等の切り替えが可能です)
■参考解像度:XGA準拠(モニタ閲覧サイズ)
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